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2022-08
クリスパタス菌KT-11の活性成分のひとつ「SLP」のこぼれ話~その3~
こんにちは、KT-11研究員です。
これまでクリスパタス菌KT-11の免疫活性成分について、これまでの研究の取組みを回想してきました。
クリスパタス菌KT-11の活性成分のひとつ「SLP」のこぼれ話~その2~ - 新ブログ - BLOG - KITII|株式会社キティー
今回3回目が最後となります。
前回ではクリスパタス菌KT-11の持つSLPという成分が、免疫活性成分の1つだったことを説明しました。一般的に、乳酸菌の免疫活性成分が特定の配列を有するDNAやRNA断片であることが多い中で、クリスパタス菌KT-11が持つSLPが免疫活性成分とした我々の報告は異質だったかもしれません。
ところで、このクリスパタス菌KT-11のSLPは免疫活性成分として働く以外に、ロタウイルスによる感染防御機能を有することをご存じでしょうか。
この知見は、信州大学農学部の河原岳志准教授との共同研究で得られた成果の一つで、Frontiers in Microbiology誌に掲載されています。
Lactobacillus crispatus Strain KT-11 S-Layer Protein Inhibits Rotavirus Infection (nih.gov)
この研究は、クリスパタス菌KT-11由来のSLPをヒト結腸癌由来細胞に振りかけておくと、ロタウイルスによる感染を防ぐというものです。
さらに、クリスパタス菌KT-11由来のSLPを人工的に調製した胃液で暴露すると、その作用は消失するという特徴も見出しました。
出典:Lactobacillus crispatus Strain KT-11 S-Layer Protein Inhibits Rotavirus Infection - PubMed (nih.gov)
つまり、クリスパタス菌KT-11を経口的に摂取すると、胃液に含まれる消化酵素の暴露によって抗ロタウイルス作用が消失してしまう可能性が高いことが分かったわけです。
それでは、なぜクリスパタス菌KT-11は、このような意味のない抗ロタウイルス作用を持っていたのか、大変興味が惹かれるところです。
ロタウイルス感染症のほとんどは赤ちゃんにだけみられ、成人になるとほとんど感染しないことが分かっています。さらに、赤ちゃんの胃液の消化酵素は、成人と比較しても非常に少ないことが報告されています。
クリスパタス菌KT-11は、出産の過程で母親の産道から、母子間伝播によって赤ちゃんに受け継がれると考えられてきました。この時、大人であれば容易に胃液で分解されてしまうであろうSLPも、胃液の分泌が未熟である赤ちゃんであれば容易に胃を通過できることが分かったのです。
つまり、赤ちゃんだけに感染するウイルスに対して、クリスパタス菌KT-11はピンポイントで感染を抑制すると考えられるのです。
クリスパタス菌KT-11がなぜ、母親から子へと受け継がれるのか、その理由を紐解く上でも大変興味深い知見になりました。